ここで、一つのプロジェクトでどんな優先順位をつけたのかを、お見せしましょう。「Wii Sports」です。
で、僕は子どもの頃から野球が大好きなんですね。だから、リアリズムを追求するなら野球しかないというくらいに思います。最高のテーマです。なのにこのゲームでは、野球場は一つしかない。実際の選手の球団やライセンスもありません。送りバントもできないですしね。野手も操作できません。しかも、3イニングしかないんです。まるでリアルじゃない。
で、キャラクターはもっと非現実的ですね。(こけしの写真を見て)これは、日本の伝統的なもので「こけし」と言うんですけどね。開発中は、「Mii」のことを「こけし」と呼んでいました。
これは、開発者達に色々な驚きを与えたと思うんですけども、なにしろ、このキャラクターには手も足もないんですね。(「Wii Sports」のスクリーンショットを数枚披露。)
僕らは、もっと別のところでリアリズムを感じてもらいたいと思ったんですね。投げて打つということにエネルギーを集中しようと。Wiiリモコンを使って、新しいリアリズムを感じてもらう方法を考えました。それは、バントとか送球とか、野球の基本を知らない人にでも遊べるものになったんですね。
もちろん、こけしのスタイルよりは「マリオのキャラクターの方が良いんじゃないか」、という実験もしてみました。けどやっぱり、こけしの方が、より自分がやってると言う感覚が強くなった。それで、こういう思い切った決断をしてみました。こういう決断をしたので、このプロジェクトは、非常にちゃんと時間内に出来上がった、ということで喜ばれました。
そして、誰にでも遊べるベースボールゲームになったんですね。実際に遊んでくださったお客さんに、「ボタンを押さなくて良いんですね」と言われたんですよ。これは結構な驚きなんですけども。ボタンを押さなくていいということも、ユーザーにとっては新しいことなんだ、と思いました。で、「私にもできるんですね」と言うんですよ。
当然、僕はいち野球ファンとして、もっとリアルな野球ができたら良いなと思います。けど、今非常に満足しているのは、世界中に「Wii Sports」を遊んでくれている人がたくさんいる、これに非常に満足しています。