前回では、主に売上高と営業利益について説明しました。今回は、営業利益を元に計算される「経常利益」のお話ですが、特に任天堂との関係が深い「為替差益」と「為替差損」について説明していきたいと思います。
経常利益とは、営業利益に「営業外収益」を足して「営業外費用」を引いたものです。数式にするとこんな感じですね。
営業利益 + 営業外利益 - 営業外費用 = 経常利益
で、ここで言う”営業外”という言葉の意味ですが、言い換えると
本業以外の儲け&損失です。任天堂の場合は、ゲーム機やゲームソフト、花札やトランプなどを製造して売るのが本業で、株での儲け、預金の利息、今回取り上げる為替差益や為替差損などが営業外のお金という事になります。
さて、この「為替差益」と「為替差損」ですが、簡単に説明してしまいましょう。任天堂は、現金をドル建てで保有しているほか、海外での売上比率が非常に高いため、業績は為替の影響を受けるのです。
例えば、1ドル=110円の時に、110円をドルに変えて預金したとします。このとき、預金額は1ドルになります。
110円 → ドルで預金(1ドル=110円) → 1ドル
その後、この1ドルを日本円に戻したいという時に、為替が変動して1ドル=120円になっていれば、引き出し額は120円となり、10円のおまけが付いてきます。これが為替差益です。
逆に、1ドル=100円になってしまうと、110円分を預けたのに100円しか戻ってこないため、損した事になります。これが為替差損です。
為替差益 1ドル(110円) → 1ドル=120円の時に引き出す → 120円 (+10円)
為替差損 1ドル(110円) → 1ドル=100円の時に引き出す → 100円 (-10円)
今は1ドル=100円程度で落ち着いていますが、この先また円安になって1ドル=120円になる可能性もありますし、もしかしたら円高が進んで1ドル=80円になってしまうかもしれません。
ドルで預金している会社にとっては、円安になれば大儲けですが、円高になると大損です。とてもリスクが高くて危険なのですが、日本よりも金利が高いため多額の利息を受け取れますので、一概に害であるとは言えません。このあたりは、それぞれの会社によって方針や考え方が違う点でもあります。
さて、任天堂は、平成19年度全体で営業外収益に500億円、営業外費用に500億円を見込んでいます。特に、営業外費用の主なものは
為替差損であるということが明らかになっています。
ここで、任天堂の2007年度の業績予想を見てみましょうか。
平成20年3月期通期 業績予想
| 予想業績 | 増減 |
売上高 | 1兆6,300億円 | +800億円 |
営業利益 | 4,600億円 | +400億円 |
経常利益 | 4,600億円 | (変更無し) |
当期純利益 | 2,750億円 | (変更無し) |
1月に発表された第3四半期の業績概況にて、業績予想の上方修正が発表されました。売上高が800億円、営業利益が400億円のアップですね。しかし、
経常利益と当期純利益は上方修正していないのです。
先ほどの”営業外費用の主なものは為替差損”という情報をもとに考えると、営業利益の400億円分は為替差損で吹っ飛んでしまった事になります。しかしこれは、1ドル=110円(期中平均レートは1ドル=115円程度)を前提にした想定であるため、実際の決算では、
さらに為替差損が膨らむ事が予想されます。
ここ数年は円安傾向だったため、2005年度は為替差益が455億1500万円、2006年度は為替差益が257億4100万円と円安の恩恵を受けてきました。しかし一転して、2007年度は為替差損が発生する事になります。
過去には、2003年度中間決算で400億円の為替差損が生じ、任天堂が1969年の上場以来初の赤字決算を発表した事があります。( →
任天堂9月中間期決算で29億円の赤字―赤字は上場後初)任天堂にとっては、それくらいに為替の影響が大きいのです。
かと言って、今回も任天堂が赤字になるかと言えば、赤字にはなりません。2003年と現在では収益の規模が違いますし、今期の場合は、
予想以上の好調さによる伸びが相殺されたという感じで、大きな影響は無いだろうと思います。
決算のニュースでよく出てくる「為替差益」と「為替差損」ですが、意外と簡単な仕組みになっています。分かりにくい部分もあったかとは思いますが、何となくでもご理解していただけたでしょうか。
次回は、「
任天堂は受取利息だけで社員の給料を払えるのか」などの様々な任天堂に関する疑問について分析していきたいと思います。
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