[書評] ”マリオの歴史”は”任天堂の歴史”、早川書房「ニンテンドー・イン・アメリカ」
年末年始ということで、普段のニュース記事から趣向を変えて書評をお送りいたします。今回は、2011年12月に発刊された早川書房の「ニンテンドー・イン・アメリカ : 世界を制した驚異の創造力」です。
本書「ニンテンドー・イン・アメリカ」では、米国進出直後の任天堂の苦悩、「ドンキーコング」でのマリオのデビュー、ファミリーコンピュータと「スーパーマリオブラザーズ」の上陸などを経て、任天堂とマリオが米国を席巻していく様子が描かれています。
著者はアメリカのジャーナリストであるジェフ・ライアン氏で、現地でのタイトルは「
Super Mario:How Nintendo Conquered America」です。
原題の通り、本書の主題はスーパーマリオになっており、”マリオの歴史”を任天堂の歴史において大きな柱としつつ、任天堂のキャラクターや商品が誕生した経緯と、それを巡る物語を紐解いていきます。
本書で注目すべき点は、何と言っても
マリオに関する知識の量です。デビュー作であるアーケード版「ドンキーコング」とマリオの誕生はもちろん、生みの親として知られる宮本茂氏と横井軍平氏のエピソード、「スーパーマリオブラザーズ」の大ヒットから「2」「3」とシリーズを重ねていく上での宮本さんの苦悩など、興味深いエピソードが多数紹介されています。
マリオに関する知識は、キャラクター展開や、その過程で数え切れない程に登場した”マリオの顔が描かれた商品”のリスト、そして他ハードで発売されたマリオ作品(!)にも及んでいます。例えば「
Hotel Mario」という作品を皆さんはご存知でしょうか?
そして、もちろんマリオ以外の”
任天堂の歴史”についても触れられています。日本で大ヒットしたファミコンを米国で展開する上で、当時いわゆる”アタリショック”により荒廃していた市場へどうファミコンを売り込んだか、または「マジックハンド」「光線銃」「ゲーム&ウオッチ」「ゲームボーイ」など横井氏が生み出した数々の商品など、特に80~90年代にかけての歴史が詳しく紹介されています。他にも、前社長である山内溥氏の人柄や、勝負師としての強さも垣間見ることができます。
なお、本書ではドンキーコング絡みで発生したユニバーサル映画など数社との訴訟について取り上げられていますが、Nintendo of Americaは他にも多数の訴訟を乗り越えています。例えばゲームボーイ向けに発売された「テトリス」に関する訴訟については、角川書店の「
ゲーム・オーバー 任天堂帝国を築いた男たち」が詳しいです(その旨については本書でも記載されています)。
また、90年代前半に発生したソニーとの「スーパーファミコン CD-ROM」(プレイステーションの原型)を巡るやり取りや、その後のプレイステーション勢力については、講談社の「
美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史」という本でも詳しく取り上げられています。
任天堂の知名度の割には、任天堂について取り上げられた本は少ないというのが現状ですが、本書はその中でも創業から現在に至るまでの任天堂と米国市場について書かれた貴重な本です。
誕生から25年以上が経過した今でもマリオが人々を魅了し続ける理由や、任天堂が海外でも市場を開拓できた理由などに興味のある方は、ぜひ読んでみてください。